【イベントレポート】 子どもの学習時間減少を考える―調査データと子育て・教育現場の視点から―
東京大学とベネッセ教育総合研究所では、約2万組の親子を10年以上にわって追跡する「子どもの生活と学びに関する親子調査」を実施しています。2026年7月25日(土)、最新の調査結果を解説するとともに、教育関係者の方々との対話を通じて、子どもの学びについて考えるウェビナーを開催致しました。
第一部 調査結果のポイント解説
調査を担当したベネッセ教育総合研究所・岡部悟志(主任研究員)より、調査結果のポイントが紹介されました。
1)学習時間の減少
調査開始以来の11年間で、小中高校生の家庭学習時間が約2割減少。内訳を見てみると、「学習塾」の時間にほぼ変化がない一方で、「学校の宿題」および、「学校の宿題以外の学習」の時間が減少していることが明らかになりました。

2)学習意欲・目的意識の低下
続いて紹介されたのは、子どもたちの意欲の問題です。興味・関心をもって学ぶ「勉強が好き」という意識は小中学生で減少。そして、「何のために勉強しているのかわからない」といった学ぶ意味や目的を見失っている子どもが増加していることも示されました。

3)社会経済的地位(SES)/成績層による格差
こうした変化は子どもたち全体に共通して生じているものなのでしょうか? それとも特定の層に起きていることなのでしょうか? 詳しくデータを見てみると、「宿題以外の家庭学習の時間」は、「家庭の社会経済的地位(SES)」や成績と関連していることが明らかになりました。いわゆる格差の問題が、学習時間においても生じている可能性があります。

4)「宿題以外の家庭学習をしない」層の増加
さらにもう一つ、懸念される傾向として指摘されたのが「宿題以外の家庭学習をしない」子どもの増加です。今や小中学生では4割、高校生の5割が該当することが明らかになりました。このような「家庭学習0分層」は、成績下位層やSESが低い層ほど多く出現すること、また学ぶ意欲や目的意識、工夫して学ぶ姿勢(自己調整)とも関連することが明らかになりました。

一連のデータを踏まえた上で、本調査の共同研究代表である東京大学社会科学研究所の藤原翔教授からビデオメッセージが寄せられました。

「今回の調査から学習時間の減少傾向が明らかになりましたが、すべての子どもが同じように学習時間を減らしたわけではありません。宿題以外の家庭学習の時間は、成績や家庭の社会経済的な状況によって差が広がっています。家庭だけに任せるのではなく、様々な機関が連携して、どの子にも学びの機会を保障することが問われていると思います。本調査で示された客観的なデータが、立場を超えて、よりよい社会を考えていくための材料として活用されることを願っています」(藤原教授)
第二部 パネルディスカッション
第一部で紹介されたデータを踏まえ、ベネッセ教育総合研究所・庄子寛之(主席研究員)の司会のもと、3人のゲストによるパネルディスカッションが行われました。
<ゲストの方々>
法山 由紀子(滋賀県湖南市教育委員会 教育長)
山谷 光寛(青森県つがる市教育委員会 教育長)
野 英利香(教育研究家・オンライン塾経営)

学習意欲の低下をどう捉える?
庄子:調査データのポイントとして「学ぶ意欲の低下」があったかと思います。まずはここからお話いただけますか?
野:東京でも地方でも、子どもたちが何のために勉強するのかあまり分かっていない印象はありますね。東京だと中学受験の影響が大きくて、それで学習に向かっている子はいます。でも受験があまり厳しくない地域では、「まあ、どこか入れるでしょう」みたいな感覚の子もいます。
一方、オンライン塾で見ている海外の子は全然違います。日本人学校、インターナショナルスクールなど色々な環境がありますが、受験の競争意識とはちょっと違う「切磋琢磨する環境」がある印象です。何かしらの将来に向けての目的意識を持っている子が多いと感じます。
法山:学習時間については、湖南市はもっと深刻ではないかと思っています。そもそも家で全く勉強しない、家庭学習も宿題もやらない子の割合がかなり高いと思います。その時に思い起こされるのがコロナ禍でのことです。いきなり休校になる中、まだ1人1台端末が行き渡っていなかった時代ですから、教職員はプリントの山を作って各家庭に運びました。ところが、プリントを与えただけではうまくできない子どもたちがいた。自分で取り組める子と、取り組めない子の格差が顕著だったんです。すごく課題だと思っておりまして、教育委員会あげて政策を頑張っています。
山谷:子どもたちが学習に向かわない要因は3つあると思います。
1つ目は情報通信機器の影響。就学前の段階で、ほとんどの子どもたちが使いこなしていますから、学習がそれより楽しくなければ、なかなかこちらには向いてくれない。
2つ目は高校入試の変化。地方部では非常に合格しやすくなっている状況があります。青森県ではほとんどの学校が定員割れです。そして、もともと定員割れしているところに再募集がありますから、最初落ちた子も再募集で入れてしまう。今の子どもって競争を嫌いますから、早い段階で私立の推薦入試を選択する子どももいるように思います。
3つ目はかつての「成功パターン」と言いますか、勉強していい高校、いい大学行って、いい会社へというモデルが完全に崩れてしまっていることです。若い人はどんどんキャリアアップを模索していますが、今の大人には「じゃあどうしたらいいんだ」という手立てが見えていない。「将来の報酬のため」という理由だけでは、子どもたちに学習する意味を伝えられなくなっていると思います。
庄子:学ぶ目的をどう持つかということですね。
野:そこを理解しないとなかなか勉強には向かわないですよね。私自身は自分の塾で、「マネー教育」みたいな手法を試しています。塾は学校と違ってお金を払って来ていただく場所なので、お父さんやお母さんが頑張っているからきみは塾に通えていて、将来そのお金がどういうふうに回っていくのかを伝えています。それから「感謝教育」。自分自身がここにいる。お家があってご飯が食べられたりすることが、実は「当たり前」ではないことへの気付きです。他者に何かしてあげられることに目が向くと、学んだことを通じて、何か他者にしてあげられることはないか?...という意識が育ちます。
法山:小学校、中学校という義務教育期間に、どんな大人になりたいか思い描いたり、未来に希望を持てるような教育が必要ですよね。そして、授業そのものを、学ぶ楽しさを感じられるものにするのが大切だと思います。今日の授業は面白かったな、明日はどんなことにつながるのかな? そんなワクワクする感覚を持って帰れたら、今日学んだことをまとめたり、明日の授業の予習をしておこう、といった想いが出てくると思うんです。私たちは学校教育を諦めたくないと思っています。
山谷:同感です。さらに言えば、教科以外の勉強にも目を向けたい。例えば掃除が素晴らしく丁寧だとか、給食が早く食べられるとか、当番の準備が丁寧だとか、それもすべて学びです。それをちゃんと見取って、周りの大人が子どもに伝えてあげることが大事なんじゃないかと思います。子どもたちが自分に対する自信を持つ。それが学びにつながっていく。学校が今一度考えなければならないテーマだと思います。
学習の「伴走者」を再構築する
庄子:具体的な取り組みとして、何か考えていらっしゃることはありますか?
山谷:昔であれば、保護者の方が家にいるとか、おじいちゃん、おばあちゃんが家にいて勉強を見てくれたりしました。ところが今は、地方でも核家族化が進んで、家に帰っても学習の「伴走者」がいない。私としては、これを新しい形で充実させていく必要があると思っています。言うなれば「伴奏者としての公設塾」みたいな形ですね。必ずしも勉強を教える必要はなくて、それぞれの子供に合わせた「学習のペース作り」をしてあげれば良い。コミュニティスクールとか地域学校協働活動の仕組みをうまく活用して、小学生、中学生、高校生が一緒に学び合う場を作ることが大事かなと思っています。
法山:湖南市では「らくらく勉強会」という取り組みを、すべての小学校、中学校で開催しています。学校の一室や帰り道にある地域のコミュニティーセンターなどにボランティアの方が来てくださって、宿題を見てくれる場です。「教える」のではなくて「見守る」取り組みを、コロナ明けの頃から行っています。何か数値となって成果が出たわけではありませんが、子どもたちが安心して宿題ができる、勉強ができる。そういう環境を整えたいと思っています。
野:私の塾はオンラインのコースもあるので、LINEでやり取する形で、毎日宿題を見てあげるサービスをはじめています。月5000円で毎日コミュニケーションをとる形ですが、教材として用いるのはいわゆる「ドリル」教材です。計算ドリルだったり、漢字ドリルだったりするわけですが、基礎学力を身につけるのに非常に重要ですし、学力が低い子にとっても取り組みやすい面があります。
山谷:とはいうものの、オンラインの環境を作れない家庭もあるんですよね。自分の部屋がないとか、静かに勉強できる場所を確保できない子供さえ実は結構います。ヤングケアラーとまではいかなくとも、自分で晩ご飯を準備しなければいけない子や、洗濯をしている子どももいる。そうなってくると学校の範疇は超えてしまうので、学校教育の垣根を越えて、地域全体で考えていく必要があると思っています。
小さな変化を「見とる」
庄子:あっという間に終了近くになってきました、最後に一言ずつお話しいただけたらと思います。
野:学習に子どもが向かわない背景には、勉強や宿題を「やって終わり」だったり「終わらせること」自体が目的になっていることがあると思います。本来は「どこができて、どこができていないのか」を自覚することが大切ですよね。正しい答えは〇、間違ったら×というだけで終わらず、×のところがなぜ間違いになったのかを分析するところまで掘り下げて、次に活かせるよう毎日アドバイスしています。
また、勉強が苦手な子が、テストで丸がもらえるようになるまでには時間がかかります。本人は昨日よりも今日、今日より明日...と、ちょっとずつできるようになっていて、学校の先生だったら解答プロセスを見て、そこに進歩があるとわかりますが、親からしたら「またできていない」と見えてしまう。プロの目でそこを可視化していくと、子どもたちのやる気が起きてくると感じています。
山谷:学校生活の早い段階で、学習につまずいている子どもが実はたくさんいますよね。そして「つまずいたまま」なのが問題だと思います。英語がわからない人に英語で話し続けているようなものですから、それは授業を受けてもつまらないですよ。
今の学校現場には教員が足りず、校長先生、教頭先生が授業に行って、やっと回っているような状況が残念ながらあります。早い段階で十分ケアしてあげられる余裕がないかもしれない。ですから、例えばその地域であるとか社会の側と連携して、ケアしてあげることが必要だと思っています。
法山:山谷先生のおっしゃったこと、本当に共感するばかりです。「学習時間が減った」というだけじゃなくて、「何であの宿題ができないのか」「何で家庭学習ができないのか」っていう、一人一人の環境やバックボーンを丁寧に見ていくことが大事だなと思います。
実は湖南市には、次期学習指導要領の先行研究実施「サキドリ事業実践校」がありまして、通常の45分授業を40分授業に変更する取り組みをしています。午前中に5時間授業をすると、25分の時間が生み出せますから、その時間を子どもたちが来週の予定を見ながら、自分の勉強をプランニングする時間等に充てています。「何曜日の何時間目はテストがあるぞ、じゃあこの時に自分はこの勉強をしよう」っていう具合に、自分の学びをデザインする時間になるんですね。岩根小学校という学校ですが、これは広めていけるのかなって思います。
庄子:今のお話で重要なのは、「自分との比較」っていうところですよね。自分の中で、昨日よりできるようになったことがあれば勉強が楽しくなりますが、外部の基準や他者と比較するばかりでは意欲をなくしてしまう。次期学習指導要領では「調整授業時数制度」を活用するなど、各学校のカラーを出し、個々の子どもに応じた指導をしやすくする検討も行われています。よりきめ細やかに子どもたちをケアできる取り組みが広がればと思います。今日はありがとうございました。